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朝鮮半島の運命を決める2018年

歴史的な「和平」なるか

韓国が狙う「核凍結」と「首脳会談」

 

「いつ戦争になってもおかしくない」そう言われ続けた2017年が無事に過ぎ去った。北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長と、アメリカのトランプ大統領というエキセントリックな2人は、年間を通じ朝鮮半島の緊張を高めてきた。彼らは2018年、どう動き、世界はどう変わるのだろうか。

文・写真 徐台教

 

戦争一歩手前まで迫った米朝関係

 

2017年、金正恩氏は3度のICBM(大陸間弾道ミサイル)発射実験を含む17度の弾道ミサイル発射実験を敢行し、9月には6度目となる核実験を行なった。そして11月末にはついに「国家核武力完成の歴史的大業、ロケット強国の偉業が実現した」と宣言するに至った。

この動きに正面から対抗してきたのが、アメリカのトランプ大統領だ。17年1月の就任直後から、北朝鮮の核・ミサイル問題を積極的に取り上げ「あらゆる手段をテーブルに乗せる=戦争も辞さない」姿勢で臨んできた。

このなかで何度も取りざたされたのが「朝鮮半島有事」、とりわけ「アメリカが北朝鮮を先制攻撃する可能性」だった。8月に北朝鮮は「グアム包囲射撃」をぶち上げ、9月には過去最高威力の核実験を行なった。
一方、トランプ大統領は9月に国連総会での演説で「北朝鮮を完全に破壊する」と発言するなど、一歩も引かなかった。

これを受けた金正恩委員長は「史上最高の超強硬対応措置」を明言するなど、この時期、米朝の指導者間で激しい「舌戦」が繰り広げられ、開戦の危険性はピークに達した。

日本でも当時、連日のように関連報道があふれたことは記憶に新しい。日本上空の宇宙空間を通過した8、9月のミサイル実験では、日本政府は「Jアラート」を鳴らし、避難訓練も行なう現実的な措置も取った。

こうしたなか、2017年になってアメリカ主導で採択された国連安保理の制裁決議は4度に及ぶ。鉱物輸出の制限、海産物や衣類、労働者の海外転出が禁止された。さらに12月22日に決議された制裁決議2397号では、北朝鮮に対する原油の供給量に上限が設けられるなど、同国の外貨収入に圧迫を加えている。

圧力を強める国際社会と、核の完成にまい進し、あくまでも核保有国として認めさせたい北朝鮮。年末までこの対決軸が緩和されることはなかった。

 

韓国新政権の「太陽政策」

 

朝鮮半島の一方の主である韓国では、16年末から2017年5月まで、約半年間におよぶ「政治の空白」があった。

親友・崔チェ・スンシル順実とともに国政をろう断した疑いのあった朴槿恵大統領の下野を要求する「ろうそくデモ」が始まったのは16年10月。全国に広がったうねりは国会を動かし、16年12月の弾劾決議案の議決を導いた。そして、17年3月に憲法裁判所により朴大統領は罷免された。

繰り上げで5月に行なわれた早期大統領選挙の結果、進歩派の文ムン・ジェイン在寅政権が発足した。

2015年10月以降、対話が途絶えたままの最悪の南北関係のなかでスタートした文政権は、過去の「太陽政策」の継承を掲げ、北朝鮮との積極的なコミュニケーションを図った。

7月にはドイツ・ベルリンのG20会議で演説を行ない、北朝鮮に対し「体制の崩壊を望まない」というメッセージを明確にするとともに、離散家族再会行事の開催、南北の軍事的緊張の緩和などを呼びかけた。

韓国は「まずは会おう」という姿勢を明確にし、その後もことあるごとに金正恩政権へのラブコールを繰り返した。しかし、北朝鮮はこれにはいっさい反応を示さず、前述のように、ミサイル発射実験を繰り返すばかりだった。

 

きっかけは平昌オリンピック

 

動きがあったのは、2018年になってからだった。

1月1日、毎年の恒例行事となっている新年辞のなかで、金正恩委員長が、「我々は民族的な大事(平昌オリンピックを指す)を盛大に行ない、民族の尊厳と勢いを内外に知らしめるためにも、凍結状態にある南北関係を改善し、今年を民族史に特記すべき事変的な年として輝かせなければならない」

と、韓国への融和姿勢を示すとともに、平昌オリンピックへの参加を表明したのだった。

これに対し韓国もすぐに呼応する。翌2日には南北関係を主管する統一部(統一省)の趙チョ・ミョンギュン明均長官が、北朝鮮に対し南北会談を呼びかけた。

すると北朝鮮も3日に、やはり南北関係を担当する祖国平和統一委員会の李リ・ソングォン善権委員長が、軍事境界線のある板パンムンジョム門店の南北連絡チャンネルの再開を表明し、南側の提案を受け入れた。そして1月9日には板門店で758日ぶりとなる南北高位級(閣僚級)会談が開かれたのだった。

この会談では「平昌オリンピックへの参加」、「軍事的な緊張の緩和」、「民族同士の対話と交渉で問題を解決」が合意された。

その後、一度の実務会議が開かれ、1月17日には1月で通算3度目となる次官級の南北対談が開かれた。ここでは、開会式での南北合同入場、女子アイスホッケー南北単一チームの結成、北朝鮮の芸術団の派遣などが合意された。まずは、喫緊の課題であるオリンピックへの詳細を詰めた形だ。

そして1月25日に、北朝鮮の女子アイスホッケー選手12名が、2月1日には、韓国のチャーター機で残りの選手10人が韓国入りした。北朝鮮の選手団は選手22名、支援チームなど24名の、合計46人で構成される。

 

南北双方の思惑はどこに

 

突然の北朝鮮の態度変化の裏には何があるのか。

筆者がソウルで北朝鮮専門家たちに取材したところによると、理由は大きく二分できるようだった。

まずは、北朝鮮が昨年末から繰り返しているように、「核武力の完成」を成し遂げたと主張している点だ。これにより、対話に積極的に乗り出す準備が完成したという見方だ。

次に「国際社会による経済制裁の効果」が挙げられる。北朝鮮経済に詳しい慶南大学のイム・ウルチュル教授が筆者に語ったところによると、昨年1年間に、金正恩氏の統治資金は5~6億ドル減少した可能性があるという。韓国との関係を改善し、それをテコに国際制裁を緩和させたい狙いが北朝鮮にはある。

一方、韓国が一貫して対話を主張してきた理由は「危機管理」にある。短期的には平昌オリンピックの平和開催という目的がある。期間中に北朝鮮が軍事挑発を行ない、アメリカ選手団が帰国するといった不慮の事態はどうしても避けたい。多額の投資が行なわれているオリンピックを、興行的にも失敗させるわけにはいかないのだ。

長期的には、朝鮮戦争の再発をどうしても避けたい事情がある。1950年6月から53年7月にかけて戦われた朝鮮戦争で、朝鮮半島は文字通り「焦土」となった。100万人以上の死者、300万人におよぶ負傷者、そして1000万とも言われる離散家族が生まれた。その後、経済発展を遂げ、世界10位圏にまで上り詰めた韓国は、再び朝鮮半島が戦火に巻き込まれることを望んでいない。これこそが、韓国が執拗なまでに米朝に対し、「朝鮮半島で戦争はいけない」と主張し続ける理由だ。

状況を打開する段階に入った北朝鮮と、オリンピックをきっかけに対話を始めたい韓国。なるほど、つじつまが合うが、これだけで急速な南北の「接近」を説明するには無理がある。

北朝鮮が最後にミサイル発射実験を行ったのは11月29日で、約2年ぶりの南北閣僚級会談が行なわれたのは翌18年の1月9日と、40日程度しか離れていない。このわずかな間に南北が急転直下、合意に達したと見るのは不自然だ。昨年末の段階で、いまの動きを予見できた記者や学者は、筆者の知る限り誰もいない。韓国政府、とくに統一部は、昨年5月以降「南北の接触チャンネルはすべて絶たれている」という説明を繰り返してきた。

だが実際には、南北間の接触は広く行なわれていた。スポーツ交流、人道支援などを行なう非政府組織(NGO)を通じ、韓国側は文在寅政権が「金正恩政権の打倒」を考えているのではないことを繰り返し伝えてきた。

昨年5月以降、見えないところで積み重ねてきたこうした努力が、平昌オリンピックをきっかけに身を結んだとみるのが正しいだろう。

李明博、朴槿恵と続いた「北朝鮮の崩壊」を前提とする保守政権から、「平和共存・共同繁栄」を掲げる進歩派の文在寅政権を、北朝鮮が「認めた」ことになる。

 

あくまで問題は「核」

 

ではそのまま、南北は「蜜月」となるのだろうか。

そう見るのはあまりに楽観的だ。韓国の目的は「北朝鮮の核廃棄」だ。日本では「融和」「弱腰」と評価されがちな文在寅大統領だが、北朝鮮の核を認めると発言したことは一度もない。

1月9日の南北高位級会談後の翌日10日に行なわれた年頭演説でも、「朝鮮半島の非核化は平和に向かう過程であり目標である。南北が共同で宣言した朝鮮半島の非核化が、決して譲ることのない私たちの基本的な立場だ」

と、非核化で譲らない事を鮮明にしている。

実際、9日の南北閣僚級会談で、北朝鮮の非核化を韓国側が議題として持ち出している。これに対し、北朝鮮側は強い不快感を表明したが「異変」も察知されている。

趙統一部長官が、1月26日にとある会合の冒頭演説で、「非核化に南側が言及したのに、北側が最後までテーブルに座っていたのは初めて」

と明かしたのだ。北側としても今回の一連の南北対話に、並々ならぬ覚悟で臨んでいるのではないかという憶測を呼ぶ理由だ。だが、金正恩氏をはじめとする北朝鮮の指導部が何を考えているのか、明らかにするのは限界がある。

ただ、韓国も「核廃棄」を押し出しているのではない。交渉の落としどころはあくまで「核の凍結」、すなわち「今後いっさい核実験を進めない」という確約を取ることだ。

事実、1月19日に行われた統一部「業務報告」のなかには、「南北対話と国際協調を土台に、北朝鮮を非核化交渉テーブルに牽引し、北朝鮮の核結を入り口にした、段階的、包括的な非核化の交渉を始める」
と、今年の目標が記されているのだ。つまり韓国は「核凍結」をもって、北朝鮮、アメリカ、国際社会との交渉を水面下で進めている。

 

3月末が「第1次リミット」

 

18年年頭に南北が対話を始めた当初、韓国では「約3か月を稼いだ」という評価が一般的だった。

これは、1月から、平昌オリンピック・パラリンピックの日程が終了する3月18日までの間に、南北対話が何かしらの「結実」を結ぶ必要があるというデッドラインだ。これは、昨年12月、文在寅大統領がトランプ大統領との間で合意した「米韓合同軍事訓練」の延期期限から来ている。

統一部の趙長官もやはり、前出の26日の演説で、「3月25日の訓練開始まで、米朝の対話を始めさせることができるかがポイント」

という具体的なタイムラインを示している。

なぜ米朝なのか、という点は説明するまでもない。北朝鮮は一貫して、核問題は韓国と話し合うものではないという立場を明かしている。あくまで「アメリカから自国を守るための核」と位置づけているため、アメリカとの直接交渉だけが事態の突破口となる。

つまり、現在「延期中」の米韓合同軍事訓練が再開される3月25日(4月1日との説も)までに、米朝間で北朝鮮の核に関する対話が始まる必要があるということだ。

これが実現しないまま訓練が行なわれる場合、一気に南北関係は冷却化するおそれがある。このために現在、米韓の間で調整が続けられている。

26日(現地時間)には、韓国の宋ソン・ヨンム永武国防長官とアメリカのマティス国防長官がハワイで会談を行なっている。政府に近いある学者は1月末、筆者に対し、「韓国政府はアメリカと緊密な連携を取っている。訓練開始前までに、訓練規模の縮小や短縮などで折り合う可能性もある」

と今後の見通しを楽観的に語った。

とはいえ、対話は必ず行き詰まる。そのために民間団体は積極的に動いている。

例えば、今年4月に平壌で行なわれるマラソン大会には、韓国側から有力政治家など100人あまりが参加する見通しだ。6月にはやはり平壌で青少年サッカー大会の開催が決まっているし、8月には同じく平壌でゴルフ大会もある。また、10月には韓国で北朝鮮代表チームが参加するサッカー大会が開催。日本も参加するという。

こうした計画を明かしてくれたのは、南北体育交流協会のキム・ソンギョン理事長だ。

キム委員長は26日、筆者の電話インタビューに対し、「南北対話は中断したことがあったが、南北のスポーツ交流は中断したことはなかった。五輪後にも南北対話ムードが続くように、スポーツ交流が引っ張っていく」

と意気込みを語った。また、人道支援団体も、おもに中国で積極的に北朝鮮側と接触している。「昨年に比べ、明らかに北側の反応が良くなった」

と、2000年代に多くの訪朝経験を持つ人道支援団体の幹部が30日、筆者に明かしている。

 

10月の南北首脳会談で「決着」か

 

そして、文在寅大統領の狙いはズバリ、「10月に平壌で南北首脳会談を行う」ことだ。

ここで、「核廃棄に向かう核凍結」を全世界に宣言するというのが、非公式ながら政府の腹案のようだ。

10月というのは、文大統領の同志であり先輩であった故・盧武鉉大統領が2007年10月4日に、金正日総書記(故人、当時)と南北首脳会談を行なった時期と重なる。

北朝鮮はこれまでのたくさんの約束を反故にしてきた。このため、南北対話への楽観視は禁物だ。ただ、今年の南北対話はひと味違うという見方もある。韓国は「最後のチャンス」と見ているし、金正恩氏も「攻撃」が公然と言われ、世界最強の制裁が課されているなかで、南北対話に活路を見出したい機運もある。

1948年に南北政府が樹立し、分断が固定化されてから、今年で70年となる。互いに異質な国家となってしまった南北が再び近づき、統合そしてその先の統一という果てなき旅程に乗り出すのか、それとも破局に向かうのか。未来を決める1年になると筆者は見る。

 

【ソ・テギョ】ジャーナリスト。現在はソウル在住。南北関係、韓国政治が取材テーマ。

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