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25th.Apr.2023

助言超え、政策介入も

マルコス大統領と5人の女たち

ボンボンのストレス説広がる

ボンボン・マルコス大統領と「5人の女たち」がフィリピンの記者らの間で話題を集めている。その5人はサラ・ドゥテルテ副大統領、グロリア・マカパガル・アロヨ元大統領、アイミー・マルコス上院議員、リサ・マルコス大統領夫人、そして大統領の母のイメルダ・マルコスさんだ。この5人は必ずしも関係良好とは言いがたく、かつ、それぞれが政策について大統領に助言することも多いため、大統領にとっては「最大のストレス」になっているとの指摘もある。

「ボンボン・マルコス大統領が日々、神経をすり減らしているのは、女性関係だ。と言っても愛人問題ではなく、政権内にいたり、大統領に直接助言できる女性たちの仲が必ずしもよくない」。フィリピンの大手紙記者はそのように話す。

水と油のサラとアロヨ

特に微妙な関係にあるのがアロヨ元大統領とサラ副大統領の関係だという。

アロヨ元大統領は、エストラダ元大統領が汚職で退任した後の2000年に副大統領から大統領に昇格、2004年の大統領選でも当選、計10年、大統領を務めた。

ディオスダド・マカパガル元大統領(在位1961~65年)の娘だが、2004年の選挙で公金を不正に使った罪で退任後に実刑判決を受け、ドゥテルテ前政権2017年まで獄中にいた。2004年の選挙では、集計を不正に操作するよう選管に持ちかけた録音テープが暴露され、選挙不正では立件されなかったものの辞任要求デモが起きるほどフィリピン国民の反発は強かった。

ただ、アロヨ氏は経済通とされ、ドゥテルテ前大統領時代には下院議長、さらには経済部門のアドバイサーとして仕えた。今年2月のマルコス大統領訪日の際にもアロヨ氏は同行している。外国投資の規制緩和にも理解を示しているとされる。

一方、サラ副大統領は経済通ではないが、不正に関しては厳しい性格。「サラはアロヨが大統領の政策に口を出すことを嫌っている。考え方や行動も水と油」(同記者)という。また、アロヨ元大統領の政治的立ち位置が、1986年のアキノ政変以来、フィリピン政治の本流だったリベラル派に近いのに対し、サラ副大統領は徴兵制導入を口にするなどリベラル派の側面は薄い。ただ、貧困層救済に関しては左派的な発言もする。

一方、サラ副大統領とアイミー・マルコス上院議員の関係はかねてより良好だ。サラ氏が2018年に南部ミンダナオ島ダバオで自らの政党「改革党」を設立した際、アイミー・マルコス上院議員はいち早く入党している。法と秩序を徹底的に重視したドゥテルテ前大統領のような明確な政治信条・思想はどちらも明確には示していないが、ウマが合う関係のようだ。

マルコス大統領とリサ夫人との関係は特に問題はなさそうだ。2月の訪日時、在日フィリピン人向けのレセプションには夫婦そろって壇上中央の席に座り、時々夫人が大統領に耳打ちするように話しかけるなど仲睦まじい様子を見せていた。

ファーストレディの声明

リサ夫人は今年1月7日、フィリピン軍情報局(ISAFP)に関連する人事と自身の関係を明確に否定するビデオ声明を発表。「私は、夫に人事を任せています。もし、誰かが私の名前を使っていると分かったら、あなたを任命しないように夫に言うわ、いい?」と伝えた。

ドゥテルテ前大統領は妻エリザベスさんと事実上離婚、ハニーレットさんをパートナーとして暮らしていたことから、ファーストレディが話題に上ることはなかったが、マルコス政権下ではリサさんの発言にも注目が集まっている。

さらに「5人目の女性」となるのが母のイメルダさん(93)だ。イメルダさんは昨年の大統領選までは、息子の選挙戦の応援活動もせず、車いすに座ったままで、耳も不自由になっていた。しかし、ボンボン・マルコス氏が大統領に当選すると途端に元気になり、下院での息子の大統領選当選証書授与式に出席した際には、椅子から立ち上がって壇上まで1人で上がり、周囲を驚かせた。娘のアイミー・マルコス上院議員によると「母は耳も急に聞こえるようになった」という。

イメルダさんが大統領の政策に口を出すことはさすがにないようだが、選挙前からリベラル派らが追及する大統領一家の相続税未納問題を解決するに当たっては、イメルダさんの意向は無視できない。

マルコス大統領は若いころからフィリピンメディアの女性記者らに「ポギ」(イケメンの意)と言われることが多く、メディア受けは悪くはなかった。「自慢話好き」(在日フィリピン大使館員)との評はあるものの女性に限らず、強権的な振る舞いをすることは稀だ。 しかし、その温和な性格ゆえに自身を取り囲む5人の女性たちへの気遣いに「かなりのストレスを感じている」(同記者)という。

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