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27th.Feb.2022

マルコス・サラのペアが圧勝の勢い

5月のフィリピン正副大統領選(前半)

5月9日に実施されるフィリピン大統領選は、ボンボン・マルコス元上院議員とドゥテルテ大統領の長女でダバオ市長のサラ氏のペアがともに地滑り的圧勝の勢いを見せている。2人が支持を集めてきた背景には、それぞれの個人的人気と選挙公約に政権末期になっても高い支持率を誇る「ドゥテルテ政権の政策の継承」を約束したことがあったようだ。

世論調査で60%の支持

民間世論調査機関パルスアジアが1月に実施した大統領候補に関する調査で、マルコス氏への支持率は昨年12月調査より7ポイント伸ばして60%となった。2月8日から始まった選挙キャンペーン前の数字としては異例の高さだ。
 左派やリベラル派が支持するレニ・ロブレド副大統領は2位には付けているものの、支持率は12月調査比4ポイント減の16%。元ボクサーで国民的英雄のマニー・パッキャオ上院議員とマニラ市のイスコ・モレノ市長はとも8%で3番手に並び、元国家警察長官のパンフィロ・ラクソン上院議員は4番手で4%だった。
 同調査の副大統領支持率でも、ボンボン氏とペアを組むサラ氏が50%でトップ。次いで、ラクソン氏とペアを組むビセンテ・ソット上院議長が29%で2位、ロブレド氏とペアを組む自由党代表のパギリナン上院議員が11%の順となっている。
 フィリピンの正副大統領選は米国などと違って、ペアで選ばれるのではなく、それぞれ最多得票を得た者が当選する仕組みになっているため、アキノ政変後に行われた正副大統領選で、ボンボン氏とサラ氏がともに当選すれば、初のペアでの当選となる。
 昔から日本人記者の間で「マルコスの息子の名前がボンボンとはまさにぴったり」と話のネタになってきたが、正式な名前はフェルディナンド・ロムアルデス・マルコス・ジュニア。フィリピンの政治家は実名のファーストネームでなく愛称を使用してメディアが報じる場合が多く、ボンボン・マルコス氏は「BBM」と呼ばれ、マルコス・サラ陣営も2人のペアを「BBMサラ」と名付けて選挙戦を戦ってきた。
 大統領候補としてのマルコス氏には、父の独裁政権下で殺害、投獄された民主化運動家、人権活動家らが多く左派・リベラル派からは「あの男の息子が大統領になることだけは受け入れがたい」と強い反発も受けてきた。

ドゥテルテ政権の継承を公約

また、マルコス氏をめぐっては「強力なリーダーシップに欠ける」とドゥテルテ大統領も辛口のコメントをしている。確かにマルコス氏の人柄は穏やかだが、弁護士として長年にわたって貧困層の相談に乗ってきたロブレド副大統領のような政治家になる以前の活動実績もなければ、上院議員時代に特筆すべき功績もない。
 それでもマルコス氏が高い支持を集めている最大の理由は、大統領候補者中ただ一人「ドゥテルテ政権の政策の継承」をサラ氏とともに明確に訴えていることだ。
 大統領選への立候補を届け出た直後の21年10月には、在フィリピン中国大使館内に二国間関係の歴史写真を掲げた「フォトウォール」の開設式に家族らとともに出席し、父フェルディナンド・マルコスが中国との国交樹立の共同声明に署名する写真などに見入った。黄渓連・中国大使は「水を飲むときは井戸を掘った人のことを考えよ」という中国のことわざを引用し、ボンボン・マルコスの式典参加を「光栄」と述べた。
 ドゥテルテ大統領が「独立外交」を掲げ、歴代政権が踏襲してきた親米路線から親中路線に舵を切った外交路線は継承されるはずだ。また、ドゥテルテ大統領を麻薬戦争による超法規的殺人をめぐり「人道に対する罪」で裁こうとしている国際刑事裁判所の国内調査要請についても、「観光客として来るのであればいいが、調査活動は一切認めない」と明言している。
 国内政策についてはサラ氏とともに「違法薬物と汚職の撲滅、経済政策ではビルド(建設)、ビルド、ビルドのスローガンの下でのインフラ整備の促進」を明言している。
 マルコスーサラの支持率の高さは、その政策の継承を明言していることで、政権を担った期間を通じて80%前後の高い支持率を誇ってきたドゥテルテ大統領に負っているところが大きいとも言える。

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